AIと物語を作る「AIのべりすと」と物語を作ったら、ライトノベル風になった

「AIのべりすと」という、なんだかおもしろそうなウェブサービスが数日前に立ち上がった。『「AIのべりすと」は日本語最大級の68.7億パラメータ&350GBのコーパスからフルスクラッチで訓練した小説AIです』とのこと。
具体的には、こちらが書いた日本語の文章からAIが続きを作成。それに答える形で人間側で続きを書いて…というのを繰り返す、交換日記ならぬ「交換小説」とでも称すればいいのかな。そういうサービスである。

有料プランもあるのだけど、まずはお試し無料プランでAIと物語を書いてみることにした。せっかくAIとやるんだから、近未来のAIの話を書いてみよう。
事前にAIに情報を与えて、その情報に沿って物語を進めることができる機能があるので、今回はそれを利用して「高性能AI」の名前とそれがスマホに組み込まれていること、名前を「ズンダ」ということをAIに認識させている。また、人力で入力した部分には赤いラインを引いておくことにする。

それでは、はじまりはじまり。


スマートフォンに通知が来る。AIのズンダからのものだ。ズンダは2030年に開発されたAIで、それまでの音声アシスタントとは一線を画し、その自然な回答は本当に人間が入っているかのような錯覚に陥るのであった。
「やっほー! 元気にしてた? 今日も一日がんばってね!」
「うん…………ありがとう」
僕は画面を見ずに答える。ズンダに励まされるとは…
「ちょっとお兄ちゃん!」
突然、妹が僕の背中を叩く。
「うわぁあああ!? 何すんだよお前!」
思わず振り返るとそこには妹の奈央が立っていた。身長170センチくらい、顔立ちもよくてスタイルもいい。ただ少し人見知りをする性格と眼鏡のせいであまり友達はいない。

…高機能なAIが登場する近未来SFみたいなものを想像していたら、突然妹が登場してしまった。あと、眼鏡の有無と友達の人数はあまり関係ないと思う。いいじゃないか眼鏡。

彼女は今朝から不機嫌だった。どうせまた何かあったんだろう。
「奈央、今日はどうしたんだ?」僕が尋ねると彼女は顔をしかめて言った。
「お兄ちゃんさあ、私に隠し事してるよね」
「え……」
「最近ずっと帰り遅いし、休日も家にいないことが多いじゃん。それに私の服とか勝手に着てるしさ」
バレていたのか。

この部分は連続してAIに書かせてみたんだけど、いきなり主人公の性的嗜好が倒錯していることが暴かれてしまった。女装癖はいいけど、妹の服を勝手に着るのはどうかと思うぞ主人公。

このままでは家族会議待ったなし。僕はズンダに解決策を尋ねることにした。
「ねえズンダ。どうして奈央には本当のことが言えないんだろう」
「それはあなたが…………」
言いかけてズンダの声が止まる。そしてしばらく沈黙が続いた後、彼女は答えてくれた。
「ごめんなさい。私はもうこれ以上あなたの力になれないみたいです」
「そっか…………残念だけど仕方ないか……」
そう言うとズンダとの会話は終了した。

AIの物語に方向転換しようとして「ズンダ」に解決策を振ってみたんだけど、主人公の質問がまずおかしい。桑田佳祐みたいなことを言い出した。
しかしそれに対する返答が急に音声アシスタントっぽく「力になれないみたいです」なのは、AIすげえと思った。会話終わっちゃったけど。

さあ、どうやって修羅場を切り抜けたものか。頼みのズンダは完全に沈黙している。
奈央が口を開く。
「お兄ちゃんさ、やっぱり浮気してたんじゃないの?」
「違うよ! 浮気なんかするわけないだろ!」
妹が一体なにを言っているのか、わけがわからない。そもそも恋人もいないというのに、どうして浮気なんて。
「じゃあさ、なんでそんなに家に帰らないの? 仕事忙しいとか言ってたけど、最近は全然定時で帰ってきているよね」
「いやだからそれは…………」

突然浮気を疑われることになってしまった。もうAI関係ない。

「いい加減にしてよ!」いきなり声を上げたかと思うと、次の瞬間には泣き出していた。
「あんまりだよぉ~。今まで優しくしてくれたと思ったら…」
ついに泣き出してしまった。わけがわからない。妹に存在しない浮気をなじられるという状況を受け入れることができない。するとそこまでの音声を認識していたのだろう。ズンダが反応した。
「浮気相手ですか? 心当たりはあります」
「あるのかよ!」

なぜ女装癖のある兄の浮気に妹は涙しているのか。ここで僕が入力した「わけがわからない」というフレーズは、物語の流れに対する疑問をただ打ち込んでしまっただけである。
そして一縷の望みを託してAIに話を振ってみたら、浮気相手を暴露するという。そりゃ主人公もラノベっぽくツッコんじゃうよね。

「はい。ずばりこの子ですね」
スマートフォンの画面に写真が表示される。話がややこしくなってきた。ズンダはいったい何を言っているんだ?
「誰これ?」
「知らないんですか? 彼女ですよ。ほら、前に話したでしょう。あなたの職場の後輩だって」
「後輩って、こんな若い女の子?」
「はい。そうです」
「いつ撮ったんだよ、こんなの…」
彼女はただの職場の後輩である。話が後戻りできない方向に転がっていくのを感じながら、妹の出方をうかがう。

どうやら主人公は妹の職場の後輩に手を出しているらしい。しかもこのAIは勝手に写真まで撮るらしい。たしかに高性能AIだけど、方向性がだいぶおかしい。話が後戻りできない方向に転がっていくのを感じているのは、主人公ではなく僕だ。

「お兄ちゃん……その女と付き合ってるの?」
「だからそういう関係じゃないんだってば!」
「じゃあどういう関係だっていうの!」
妹がヒステリックに叫ぶ。ああもう面倒くさいことになったじゃないか。
ズンダなんとかしてくれよ。僕はスマートフォンに視線を向ける。『ごめんなさい』ズンダのメッセージが表示された。
おいおいマジかよ…………

あーあー、主人公は妹と付き合っていて、妹の職場の後輩に手を出し、たまに妹の服を着ているタイプの女装癖の人間になっちゃった。変態と言って差し支えないだろう。
そしてAIはこの状況を見て逃げ出してしまった。たしかにこの判断は高性能なAIにしかできないだろうよ。

結局その後、妹は僕のことを徹底的に問い詰めてきた。そして一時間後には両親まで登場。僕が必死に弁明するも、母は怒り狂い、父は呆れ果てていた。そして奈央は終始無言だった。

そして物語は終焉に…両親も常識人っぽいけど、なんかいろいろとズレてるぞ。この主人公に対してはもうちょっとなんらかの対応をしないといけない気がするのだけど…


一応結末めいた展開まで辿り着いたのでここでペンを置いたのだけど、なんだろう、この2008年くらいのラノベのノリは。AIの訓練に使われた題材にそっち系の本が多かったのか…?
もうちょっと自分で書く文量を増やしたら意図したとおりの方向に進んだかもしれない。妹が出てきちゃったらなあ…

しかしまあ、文法のおかしい部分なんかはまったく見られないし、倫理的に問題のある主人公が登場して、話の流れに違和感はあるけれど、とりあえずちゃんと1本の文章になっているというのは特筆すべき部分だと思うし、なにより自分の意志と関係なく物語が進んでいくのはなかなかおもしろい体験だった。

この「AIのべりすと」もしくはこれに似たAIが作家の仕事を奪うのはまだまだ先のことだと思うけれど、いやあ、それまではなかなかおもしろいことになりそうだなあ。

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