今年に入って僕が愛読していたマンガがいくつか完結していったのだけど、それを追うようにして「34歳無職さん」が全8巻で完結した。
どんなマンガかといえば、タイトルの通り34歳独身無職の人のお話。各巻の最初の話にはこのような説明がある。
先月勤め先がなくなった
再就職先など気遣ってくれる口もないではなかったが
まあ色々思う所あって
一年間何もせずにいようと決めた
とりあえずなんらかの勤め人であった主人公(最後まで名前は明かされない)が、いろいろと思う所あって34歳無職さんへ。というのがあらすじである。
序盤ではプロフィールが謎に包まれている無職さんなのだけど、物語が進んで行くにつれて子供がいる、既婚者である…ということなどが明らかになっていく。
物語は無職さんの周辺の日常と、過去に接点のあった人達との交流によって進んでいく。
しかし、物語が大きく進展する…ということはほとんどない。ただ淡々と34歳無職さんの日常が描かれていく、そういうマンガなのである。
完璧への対抗としての無職さん
無職さん、というタイトルからも少しだけ漂ってくるのだけど、彼女はまったくもって完璧な人間ではない。
もし現実に無職さんがいれば、「一年間なにもしないなんて」というような目を向けられそうだし、物語の中でも冗談めかしてではあるものの、そんなことを言われていたりする。現実には履歴書の経歴欄に穴があると採用されないよ、なんて話もある。
それだけではない、前述の通り無職さんには夫がいたし、子供もいた。しかし物語が進むにつれて見えてくるのは、うまくいかなかった家庭の形である。
仕事にかまけて家庭を顧みなかい夫、過剰に完璧を求める姑、言うことを聞かない娘、その中でヒステリックになってしまう無職さん。ストレスを娘にぶつけそうになったり、かなり強い口調で娘を叱ってしまった…というような回想も物語の中に何度か登場する。
その結果として離婚・親権を手放すという、これまた世間的にはあまり歓迎されなさそうな過去を無職さんは抱えているのだ。
無職さんは物語の主人公として、完璧とは遠い人なのである。無職だし、母親としてもリタイアしてしまった。でも、人間ってそういうものだよね。と思うのだ。
なんだかんだいって、世間は完璧を求めがちだ。少しでもスネに傷があればそこに塩を塗りたくるものである。
自分はできるだけ完璧じゃない物や人を受け入れようと意識しているつもりだけど、常に受け入れているなんてとても言えない。だけど、完璧を求めすぎればギスギスするし、疲れてもしまう。
そのストレスに耐えきれる人はいいが、耐えきれずに潰れてしまう人もいる。
無職さんは押しつぶされる前に逃げることができて、「無責任だけど、完璧ではないけど、こういう道もあるよ」と示してくれているような気がする。
そして現在22歳無職さん、そろそろ23歳無職さんとなる僕は、少しだけ34歳無職さんに救われているような気がしている。
最終話で無職さんに救いがあるのだけど、「こんなにうまくいくのかな」という意地悪なことを思う自分と「たまにはこんなことがあってもいいんじゃないかな」と思う自分がいる。
でも、疲れてしまっている人にも、追い込まれている人にも、ご褒美としてこんなことがあってもいい。と思えるようでありたいな、とは思う。
あなたはどちらの感想を持つだろうか。そしてあなたの中に無職さんはいるだろうか。