「将来に対する唯ぼんやりした不安」と遺書に書いたのはどの文豪であったか。生活というのは多くの人にとって「不安」と切っても切れない場所にある。
明日仕事をクビになったらどうしよう、クビにならずとも会社が倒産することだってあるだろうし…
それこそ実家がめちゃくちゃに太くて、明日仕事を辞めてもそのうち遺産が転がり込んでくるから…という知り合いがいたが、そんな人はほんの一握り。世の中の99%の人はそんな環境に暮らしているわけではない。
『出セイカツ記 衣食住という不安からの逃避行(著:ワクサカソウヘイ)』は人間生活として生活するに必要とされる衣食住からなんとか逃げることはできないか?というエッセイである。
衣食住には金がかかる。それを支えきれなかった時に、人はどうやって生きていくのか?
条件付きではあるけど、わりと生きられる…?
第一章では生活苦に襲われた時に備えて海に潜り魚を捕って生活をし、第三章ではなんでもない拾ってきた石を売ることで経済に反旗を翻す。最終的には現実からの脱走として社会的に「仮死」した際のエピソードが登場する。
余談だけど、僕は本書の筆者であるワクサカソウヘイさんが書いているエッセイなどを、数年前からほとんどチェックしている。この「仮死」期間はSNSでもなにも動きがなかったので、結構心配していたりした。
本書に横たわるのは「生活へのぼんやりとした不安」である。それなりに働き、それなりの収入を得て、それなりの衣食住を手に入れる。それが現代社会を生きていく、最低限度の生活を送るための条件であり、生活への不安というのはこのプレッシャーから生まれる。
ワクサカさんはその不安に対して「なんとか回避する方法はないか、裏技はないか」と思案し、実際に試していく。そしてそれなりに上手くいってみたりみなかったりする。
海に潜って魚を突くことで、とりあえず1週間はご飯に困らない…という結論が出たり、料亭に持っていくと高額で買い取ってもらえるスッポンは意外と簡単に捕まるし、泥団子はフリマサイトで6000円で売れる。
そこに果たして持続性があるのか?というと微妙なところだけど、選択肢があるというのは重要なことだ。逃避できるのは素敵なことだと思う。
この本を勧めるべきはどういう人だろう、すべてに生き生きとしている人にはあまり読む必要もないだろうけど、生活に人生に、唯ぼんやりとした不安がある人にとっては、心を少し軽くしてくれるだろう、そんな一冊だ。