MLBで日本人が160km/hを越えるボールを投げ、しかも同じ選手がホームランを連発する日が来るとは。
野球を見始めた20年くらい前にはそんな事態が発生するなんて夢にも思わなかったのだけど、たぶんほとんどの人がそんなこと予想できていなかったはずだ。野球マンガの中の超人が、現実世界の超人よりも地味なのだ。
この異常事態を越えるマンガの登場人物を作るとしたら200km/hくらいのストレートを投げて、100mを5秒で走って、300mくらいのホームランを連発しなくてはいけないだろう。いくらなんでもやりすぎだけど、それくらいやらないと現実世界に数年後に追い抜かれてしまうかもしれない。
そんな「超人を描く」というのが難しくなった野球マンガ界。人気になる作品もならない作品も、いろいろな趣向を凝らして超人以外のおもしろさを追究しはじめている。
「ドラハチ」もそんな「超人ではない主人公」を描いた野球マンガなのだけど、あまりにも異次元なので紹介したいと思う。
(記事作成時は3巻まで既刊)
ドラフト8位で指名された高卒捕手「黒鉄八郎」は、思いを寄せる幼馴染みから結婚の条件として「入団1年目でチームを優勝に導き、MVPを獲得する」という高いハードルを課される。
身体能力はプロギリギリのライン、観察力・発想力・行動力はピカイチの黒鉄は、弱小チーム「カーボンズ」を優勝させ、シーズンMVPを獲得することはできるのか…?
という、なかなかスリリングなあらすじの物語である。ちなみに現実のNPBにおいて新人でMVPを受賞したのは木田勇、野茂英雄の2名が達成しているものの、両者ともにチームは優勝していない。2023年に阪神タイガースの村上頌樹は新人王とMVPを同時に獲得し、チームを優勝に導いたものの3年目の選手。
そんなわけで「チームを優勝させ、MVPを獲得した新人」というのは現時点で存在していない。特にキャッチャーで…となると、まあおそらく達成されることはないだろう。
異次元にスピーディー
そんな「ドラハチ」について、一番特筆したいのは「展開のスピーディーさ」である。主人公の観察力や行動力も異次元レベルではあるのだけど、これが最も異次元であるといっても過言ではない。
話の性質上、おそらく黒鉄のプロ1年目終了が作品のフィナーレ…ということになるんだろうなと予想しているのだけど、オープン戦とかキャンプは早々に終わって、2巻終了時で開幕戦の試合終盤で終わっているのだ。
3巻終了時点でおそらく5月くらい。シーズン終了まであと5ヶ月くらいしかないですよ!!!大人気な某少年探偵マンガは1年を100巻以上かけて描いてるんですよ!
ドカベンやMAJORだったら1試合で数巻を使うこともあるというのに、このスピーディーさ。これが令和の野球マンガか…
さらに3巻では大事件が発生し、前年までの不動の正捕手がチームを去ることになる。しかし、そんな大事件に対しても事件発生から退団までが一瞬過ぎてビビること間違いなし。
え、そんなにあっさり終わらせちゃうの?普通こういうのって最低でも1巻かけてやっていくもんじゃないの?とあまりの異次元のスピードに驚くことしかできなかった。
冷静に考えると、あまりにもスピーディーすぎる展開に「打ち切りがヤバかったりするのかな…?」と勘ぐってしまうんだけど、ストーリーとしては滅茶苦茶しながらも結構おもしろい。
できればしっかりと黒鉄のルーキーイヤー終了までは描いていただければなあと思っている次第です。