巨大ピンク猫を見に行く…飯川雄大『デコレーターズクラブ 同時に起きる、もしくは遅れて気づく』

欠かさず読んでいるパピヨン本田さんが紹介している展覧会が箱根彫刻の森美術館で開催されている!しかもなんだか内容がマンガでは伝わりづらそうでおもしろそう!という衝動に駆られて、突然箱根まで行ってきました。

見に行ってきたのは、飯川雄大『デコレーターズクラブ 同時に起きる、もしくは遅れて気づく』である。
不勉強なのでマンガを読むまで知らなかったのだけど、現代美術作家であるらしい。「現代美術」…なんだかよくわからないけど素敵な響きではないか。

入園してみると普段とは明らかに異なるロープが張り巡らされていることに気がつく。

『弓を引くヘラクレス』の後ろにも無数のロープが張り巡らされているし…

『人とペガサス』の近くにもロープが張られている。

これらのロープは入園してすぐの円形広場のあちこちを通っているのだけど、ロープを辿っていくと展示室に行き着く。

はい、これですね。
展示室の中にもロープが張り巡らされていて、なんだか美術展とは思えない雰囲気。他に形容する言葉も見当たらないのだけど…

写真ではわかりづらいのだけど、このロープの終端にはハンドルが付いていて、これを回すことによって展示室内、もしくは屋外展示に張り巡らされていたロープの先でなにかの変化が起こる…というのがこの展覧会の表題にもなっている『同時に起きる、もしくは遅れて気づく』という作品だ。
ハンドルを回した時に同時に起こっている変化について、その結果は遠くで発生しているので本人は気がつかない、もしくは後から気がつく…という寸法である。
もちろんロープが張られているので気がつこうとすれば変化する場所を見つけることはできる。でも自分が起こしている変化を真に自覚することはできない。

ほとんどの美術展では、この「場所」の使われ方はまったく違っているんだろうな、というのが興味深かった。美術展といわれて想像するのは壁に絵が飾られていたり、台の上に彫刻が乗っていて、それを静かに鑑賞するというものだ。もちろんそれはそれで素晴らしいことである。
しかし、こういう風に「場所」がデザインされると作品に触れてもいいし、いろいろしゃべってもいいし、ハンドルを回すという運動をしていいし…という風に同じ「場所」がまったく違った使われ方になる。

ピンクの猫の小林さん

「数mはある巨大なピンクの猫を見に、箱根まで行ってきました」というのが今回の趣旨なのだけど、よくよく考えるといろいろと検査されそうなお話である。
なにかしら合法ではない物を使ってしまって幻覚が見えているとしか思えないが、本当なのだから仕方がない。

「彫刻の森美術館」と聞いて最初に頭に浮かぶかもしれない『ミス・ブラック・パワー』を写真に収めると明らかになにかが写り込むし…

シマウマの向こうにも、なんらかのピンクの物体が現れる。

そう、これが『ピンクの猫の小林さん』である。デカい。写り込んでいる人と比較するに10mくらいはありそうだ。

他の作品と比べて、これだけのインパクトがある。

さて、この『ピンクの猫の小林さん』は明らかに「インスタ映え」を拒否する位置に設置されている。わざわざ顔の辺りに木が来るように配置されているし、もうちょっと設置する位置を変えればこの特別展のアイコンとして映えただろうに…というのがこの作品の狙いである。

鑑賞者は、本作と出会った時に起こる衝動を第三者に伝えようと、撮影のベストポジションを探しますが、なかなかその場所を見つけることができません。本作は巨大なスケールのため、全貌を見たいと遠くから眺めても、木立によって部分が隠れてしまいます。
デジタルカメラとスマートフォンの普及で、誰しもが手軽に自分の感情や行動を発信できる時代になりましたが、心の動きや反応を、相手にどこまで伝えることができているのでしょうか。
アーティストは、情報と感動を共有しようとする行為、その伝達の曖昧さについて意識を志向させる試みを続けます。

キャプションボードより

誰もが手軽に写真を撮影して共有できる時代、そのアップされた写真で伝わる感情は果たしてどこまで本物なのか、どこまで伝わっているのか…
たしかにこの作品を実際に見た時の感動と、撮影してきた写真から伝わる感動は別物の様な気がする。さらに言えば、実際に見た時の感動はゆっくり薄れていって、そのうち撮影してきた写真の感動にすり替わっていくかもしれない。
それどころか作品を実際に観る機会がなければ、誰が撮影してきた写真や映像から感じ取ったことのみが曖昧に、しかも一時の間発生するだけになる…

カメラを趣味にして生きているので「撮影者の意図を画面内に残すことで、なにかを伝えられるようにしたい」という風に思うのだけど、それが本当に伝わっているのか、伝え方として正しいのか、など色々な感情が入り乱れて「うわあー!」となってしまった。
相手はピンク色の猫だというのに。


美術展なんかはたぶん一般的な平均よりは見に行っている…という自負があるのだけど、それでもちょっとこれはすごいぞ!と思える展示でした。
実は一番の衝撃を受けた作品は、展示室内にあった映像作品なんだけど、これはネタばらしをしないとすごさが伝わらない作品なのでここでは割愛します。映像を見た後で図録を購入しないと衝撃を味わえないので、是非とも実際に展示を観に行ってもらえればと。

天気が悪いとピンクの猫の小林さんは引っ込んでしまうらしいので、天気予報と相談の上で行くことをオススメします。
2023年4月2日まで!!!

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