『今日もひとり、ディズニーランドで』は、ワクサカソウヘイさんの小説であり、書名からわかるとおり「ディズニーランドにひとりで入り浸る男」の話である。
僕はディズニーランドに恨みがあるわけではないけれど、「自分にとって一番の空間ではないな」と思っているタイプの人間であり、友人から誘われれば行かないこともない。チケットが当たれば、まあ行かないのもなんだし…と思う程度である。休日に自発的に行くことは、まああり得ないと思う。
そんなディズニーランドに無関心な自分が、なぜこの小説を購入するに至ったか。そもそもワクサカさん、文庫版解説を書いている品田遊さんのファンである…というのはひとつ大きな要因なのだけど、この本の主人公が少し前の自分と近い境遇だったからだ。
「霞んでいく夢とか希望を、ここに来れば取り戻せる」。仕事もせず実家で寝てばかりいた二三歳の僕は、そう信じてディズニーランドにひとりで通っている。アトラクションの列で家族や学生時代の回想にふけったり、美少女をスカウトマンから助けようとしたり。ある夜、そんな毎日が父親にバレて――。
裏表紙のあらすじより
主人公は23歳無職。夜間学校を卒業して、それまでに貯めていたアルバイト代と、実家暮らしというアドバンテージを活かして就職をせずに暮らしている。そして家にいづらいときにはディズニーランドに向かう。年間パスポートも買う。そんな主人公だ。
翻って、23歳の僕も無職であった。大学を卒業したものの就活に失敗してしまい、ちょうど1年間無職だった。睡眠時間もかなり長かったような気がする。基本的には家にいて、あるとき急にフラッと出かける。行き先はディズニーランドではなかったけど。そんな日々を過ごしていたのだ。
さらに主人公と自分の共通点として「なにを考えているんだ」と問われた際に「え、特になにも…」となってしまうところがある。
この手の質問には昔から疑問があって、人が常になにかを考えている。しかもその内容は将来のこととかそういう崇高なことである…って決めつけてかかってくるのはなぜなんだろう。みんな自己啓発本とか読んでるんだろうか。ドラッカーとか…?
そういうタイプの人間なのである。かなりの親近感が湧く。
そんな23歳無職であっても「王国」は、夢と希望を与えてくれる。なんと言っても「夢と魔法の王国」なのだ。ひとりでアトラクションに並んでも、某アトラクションでキャストのつまらない冗談を聞いていても、高校生カップルのディープキスを見てしまっても、王国にいる間は夢と希望がある。そんな気がする。だって「夢と魔法の王国」なんだから。
その一方、どんなに夢と魔法を享受したとしても王国外での自分はまったく変わらない。なにか好転するわけでもない。王国の夢と魔法は、出口ゲートを出て舞浜駅に向かっている途中で弱まっていく。王国の夢と魔法が強力であればあるほど、その落差が大きくなるばかりだ。
自己啓発に救われるタイプの人でなければ、王国の魔法に当てられても、本当の意味の救済にはならないんじゃないかとすら思う。
本当に王国が大好きな人に聞くには、王国に行くことを目標に仕事を頑張り、日々の辛いことに耐え、自分へのご褒美として王国行きがあるのだそうだ。彼ら彼女らには、王国の夢と魔法はしっかりと作用している。非常にちゃんとしている。真面目なんだなあと思う。
たぶん、そういう人からしたら、この本の主人公も、このブログを書いている僕も「不真面目でヘラヘラしている」と言われるのだろう。僕は実際にそう言われたことがある。
だけどまあ、そういう人でも生きているのだ。生きにくいと思いながらも生きているし、世の中に中指を立てるほど強くなくても生きているのだ。そんなことを感じたのでした。