ビートルズとAIと

なにを隠そうビートルズが大好きである。中学生の時に英語の授業で聴いてから、徐々にアルバムを集めたりなんだりして、どっぷりとハマっていった。もう20年弱経つことになる。年を取るわけだ。

そんなビートルズの27年ぶりの新曲が発表される!という発表があったのは10月の終わり。解散して50年経過したバンドの新曲というのはいささか奇妙な話ではある。
それもそのはずで、今回発表された「Now And Then」はビートルズが解散した後にソロ活動をしていたジョン・レノンが録音していたデモテープに、生前のジョージ・ハリスンがギター伴奏をして、存命のポール・マッカートニーとリンゴ・スターが肉付けをした…ということだ。
デモテープ自体は過去に存在が確認されて、その時点では「あまりにも録音状態が悪くてどうにもならない」という評価だったのが、現代のAI技術によってテープ内のジョンの声とピアノの音を分離することに成功。しかもノイズも消したのだという。
ビートルズの4人の名前がクレジットされる曲としては、おそらくこれが正真正銘ラストになるだろうなあ。

そんなAIを駆使して作った曲、「Now And Then」とビートルズの初期の曲をAIを駆使してリマスタリング、ベストアルバムであるところの「赤盤青盤」がさらに新しくなって発売!というAIを駆使したアルバムが発売されたのである。

初期作品にちゃんとしたステレオ化が!

ビートルズの初期作品はモノラル音源を主として作成されたため、ステレオ版は左右で楽器と演奏が別れているなどの謎ミックスが行われてしまっていた。
イヤホンの片方からはボーカルが、もう片方からは楽器の音が。あれ、この曲はポール・マッカートニーが歌っているのに、右からボーカル、左からベースが聞こえるぞ…?といった具合だ。
そんな状況からか、2009年のリマスターバージョンではモノラル音源が採用されていたりと、不遇だった初期作品のステレオバージョン。中期から後期の作品では「ちゃんとした」ステレオバージョンが作成されているのでいいんだけどね。

それを今回AIの力でミックスし直し。現代っぽい…というか違和感のないミックスが実現されている。新曲もそうだけど、初期楽曲が「おそらくビートルズがやりたかったけれど、技術的に難しかった」部分を補完されて蘇ったのがすごいことだと思う。

収録曲がよい!

ちなみに今回収録曲も変更されているのだけど、追加された曲が素晴らしい!

最初のアルバム「Please Please Me」の1曲目である「I Saw Her Standing There」は手拍子のひとつひとつに至るまでちゃんと聞こえるし、「Can’t Buy Me Love」はアイドルしていたビートルズを感じることができる。
「A Hard Days Night」ときてアルバム「Rubber Soul」でアイドルからの脱却、「Nowhere Man」や「Girl」に加えて「If I Needed Someone」が入っているのも心憎いですね。
そしてなぜかベスト盤にほぼ選ばれていなかった「Revolver」の曲も多数収録。このブログのタイトルに引用している「I’m Only Sleeping」も逆再生ギターの存在感が上がったんじゃないだろうか…あくびの存在感は確実に上がった。

とまあ、語ろうと思えばいくらでも語れるんじゃないかという、そんな出来のベスト盤になっているので、ビートルズファンの皆さんは是非購入するべきだと思いますよ。まだ青盤のことを書かないでこの文量になりますから。

「Now And Then」の評価

さて、赤盤の初期楽曲にちゃんとしたステレオバージョンが追加されたのに対して、青盤はどうなのか。
こちらに関しては元々のミックスがわりとちゃんとしているので、音質に関しては近年発売されていたデラックスバージョンなどなどから大きく変化している…という部分は少ない。

もちろん「A Day In The Life」あたりの楽器の分離とか、デラックスバージョンが出ていない「Magical Mystery Tour」からの曲は驚きがある。「I am the Walrus」とかそれこそ表題曲の「Magical Mystery Tour」はすごくいい。アルバムジャケットばりのカラフルさを感じる。
後期の曲に関しても「Hey Bulldog」のパーカッションのキレがめっちゃ良くなってたりとか、「Revolution」は本当に2023年だからこそ輝くと思う。「Something」でのジョージが発揮したメロディーラインはさらに美しく聞こえるし、ポールのベースの縦横無尽っぷりも最高だ。

「Now And Then」はビートルズ曲か?

これまたいくらでも語れそうな青盤の最後に収録されたのが新曲「Now And Then」だ。
冒頭にも書いたとおり、ジョン・レノンが作ったデモテープに肉付けをして曲にした…というトラックだ。
この曲に関しては、言葉が難しいんだけど「あんまりビートルズっぽくはない」と感じる。まあ、そもそもがビートルズ解散後に、ジョン・レノンがソロ活動をする中で作成していた曲なのだから、ビートルズっぽい曲だったらそれはそれで不思議なのだけど。
もちろん、曲としては結構好きなんだけどね。これがビートルズのベストアルバムのラストに入っているということに若干の違和感は感じる。

ただ、この「ビートルズっぽくなさ」を自分はわりと肯定的に考えている。ビートルズはそもそも初期・中期・後期(もしくは前期後期)という分け方ができるほどに多彩なバンドである。
それぞれの期間に特徴があるのだから、もしも1970年に解散していなかったら、「Now And Then」のような感じの曲を作るグループになっていたのかもしれない。当時のファンだって、若干の違和感を持って当時の新しいアルバムを聴いていたのだろうから。

なんだかんだいって、今回の赤盤青盤は大成功だと思う。
ビートルズは当時の録音技術や新しい楽器を次々取り入れていったのだ。現代のバンドだったとしたら絶対にAIも取り入れていたことだろう。
そんなIFの世界を垣間見ることができる。いい時代だなあ。

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