自身のTwitterを見返したところ、2017年から断続的に「仮面がほしい」という話をしていた。5年も前からか。
きっかけはこの記事で紹介されている「仮面屋おもて」さんに興味を持ったから。たぶん10回くらいは読み返したと思う。
東京都の墨田区にある「キラキラ橘商店街」の一角にある、大川原脩平さんという舞踏家の方が営む仮面専門店。なんかそう聞いただけで興味がわいてくる。
行こうと思えば行ける距離ではあるのだけどそれなりに電車を乗り継がないと行けない絶妙な距離だったり、基本的に土日しか営業していないのでなかなかスケジュールが合わなかったり、コロナで外出がはばかられる事態だったり…で、また今度また今度を繰り返していたら5年が経過したのである。恐ろしい話だ。
人生の充実にはこういうことをしていちゃいかん。というわけで、実際に行ってみたのだけど、なかなかにおもしろい体験であった。
営業中だけど、店主を探さねばならぬ
公式サイトにある「ご入店に際して」というページにはこのような注意書きがある。
仮面屋おもての営業時間はおおむね土曜・日曜の12:00-18:00ですが、店主がオープン直後にお昼ごはんを食べに出かけるほか、営業時間の半分ほどは周辺を散歩していて不在です。
そのため、入店前に店主の居所を探していただく必要があります。 主に徒歩で移動しますので、それほど遠くにいることはあまりありません。
周辺の店舗オーナーたちにお尋ねすることでおおむね所在がつかめます。
ご入店に際して
そしてその下に貼られたGoogleマップには「仮面屋店主がいそうな場所」というタイトルが付けられている。入店するにはRPGにありそうな探索パートが必要になるのだ。なんだそれおもしろい。
そして注意書きに偽りなく、僕が店に着いた時点で入口に鍵がかけられていた。店主散歩中である。探すしかない。
とはいえ「仮面屋店主がいそうな場所」地図にマークされているのは、近所の商店街のお店のみ。仮面舞踏会に参加する予定があるわけでもなし、気長に捜索を開始した。
まずは商店街を行ったり来たりしてみる。地元の人が活発に行き来していて、僕の地元の商店街とはだいぶ趣が違う。下町というのはたぶんこういうことだ。
「いそうな場所」マップを見ながら目に入ったお店を外から眺めるなどしつつ探していたのだけど見当たらない。聞き込み調査をするしかない。
昼ご飯を食べていなかったことを思い出し、ベーカリーチャウチャウさんでチーズカレーパンを購入。会計の際に「仮面屋の方ってどのあたりにいるかご存知ですか?」と尋ねると「わからないけれど、○○の人ならどこに行ったかご存知かも」という情報を教えてくれた。いよいよRPG風味が増してきた。
なぜかたこ焼きを食べる
カレーパンを食べながら商店街の中をうろつく。人生の中でこういう形の人探しは初めてなんじゃないだろうか。そんなことを考えていたら、たこ焼き屋さんの前を通りかかった。
店主マップにも掲載されているたこ焼きこんこんさんである。 そういえば少し前から「久しぶりにたこ焼きを食べたいな」とも思っていたのだけど、生活範囲の中にたこ焼き屋がないことで、こちらも数ヶ月単位で先延ばしにしていた。
たこ焼きを注文して焼いてもらっている間に、仮面屋店主の所在を尋ねると「さっき向こうに歩いて行った、紺色の服を着ていた」という情報と共に「ちょっといそうな場所に連絡してみるよ!」との嬉しい申し出。
店の外で明太マヨたこ焼きを食べている間にも次々にお客さんが来て「これぞ商店街」といった感じ。
たこ焼きを食べ終わった頃、仮面屋店主の大河原さんへと連絡がつながり、お店を開けていただけることになった。大河原さんは途中で得たヒントの通り、紺色の服を着ていた。
仮面と対面
…実は、数年越しの訪問が叶ったことで緊張し、店内の写真を1枚も撮っていないという体たらくなのだけど、いよいよ「仮面屋おもて」内部へ。
古い長屋をリノベーションしたと思われる店舗は2階建てで、1階にも2階にも仮面がたくさん。これまでの人生の中に登場したことのない造形が所狭しと飛び込んでくる。
「伝統芸能」という言葉からイメージするような仮面。おそらく今後も誘われないだろう仮面舞踏会にはこれを着けていけばいいのかな?といった仮面。お祭りで売っているような、いわゆるお面。え、これは仮面なの?ほぼ顔隠れてないけど?という仮面…
いろいろなバックボーンがある仮面が一緒になって、商店街の一角に飾られているというのは、なんとも異様な空間だ。 さっきまで商店街でたこ焼きを食べていたというのに。
5年前から「仮面が欲しい」と言い続けてきた僕だけど、ここ数年の間にVTuber文化にハマって「リアルとバーチャルのアバター」の関係に興味がわいてきた。
普段はそういうことを言わないけれど、VTuberだって仮面を被った人間である。画面とアバターの向こうには人間がいるし、その人の人生であったり、生活というのが絶対に存在している。リアルとアバターが完全に一致する人なんていないわけで、そのギャップが大きくなりすぎてしまう人もいて、そして仮面を外して新しい道に進む人だっている…というのを、自分も仮面を被ってみたらリアルに実感できるじゃないか…
なんて考えていたら、ひとつの面を買っていた。オーソドックスだけど黒い狐面だ。
日曜日の過ごし方としてはこれ以上ない経験だったと思っている。
家に帰って狐を着けてみる。鏡を見てみると、どうにもこうにも不審な男が映っていた。帰宅途中の電車で試さなくてよかったと心から思う。