レイチェル・カーソンに捧ぐ

先日、ちょっと高めの殺虫剤を購入した。
虫に対する嫌悪感は、たぶん普通の人よりも少ないと思うのだけど、それでも部屋に出てくる虫というのは好ましい存在ではないし、急に出てくると無駄に心拍数が上がる。
出会う前になんとかしてしまいたいので、用途としては燻煙剤が望ましいのだけど、部屋の中で煙を焚くには結構な下準備が必須である。それが面倒くさくてどうしても泥縄な虫対策を行うこととなる。

しかし、今年は違う。各メーカーの企業努力により、煙を焚かなくても燻煙剤と似た効果をもたらす製品が発売されたのである。
これを奴がいそうな隙間にスプレーしてやれば、なんと一ヶ月の間あいつを寄せ付けない!らしいのだ。これを部屋の隙間という隙間にばらまき、また家の中の他の部屋にも適度に散布すれば、あいつのことを見かけずに済むのだ。
なんたる完全勝利、科学の進歩というのはすばらしいものだと思う。誇らしいことではないか。

そう考えて意気揚々と帰宅。さっそくスプレーを散布しようじゃないかとパッケージを開けたところで、ふと気が付いた。これ、隙間に散布した瞬間、あいつらが飛び出すんじゃないか?
それだけ強力なスプレーであれば、向こうだって驚くだろう。「野郎、ついに一線を越えやがったな、ずらかるぞ!」となるだろう。そうしたら彼らは隙間から飛び出してくるだろう。それはあまり望ましい光景とは言い難いのではないだろうか。

とりあえず、部屋の中の3カ所くらいに散布する候補がある。机の裏、棚の裏、タンスの裏だ。
順にスプレーを使っていったとして、机の裏はなにも出てこない、棚の裏もなにも出てこない、「なんだ、案外大丈夫じゃないか…」と最後のタンスの裏に散布した瞬間やつらが…という可能性だってあるじゃないか。油断したところを突いてくるのはあいつ等の常套手段だ。

そんな想像をしてしまったせいで、未だにスプレーのワンプッシュもできていない。レシートの日付を見ると、購入からそろそろ一週間が経過しようとしている。
たぶん、レイチェル・カーソンが警鐘を鳴らした「沈黙の春」ってこういうことなんだろう。

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