「四畳半神話体系」をNetflixで視聴した。端的に言って感動した。ガツンとやられた気がする。
2010年にアニメ化されている作品なので、まあ、そこそこにネタバレを含みつつの感想を…
あらすじ
京都の大学に通う「私」は薔薇色のキャンパスライフを望んでいる。目の前には薔薇色キャンパスライフへの近道、サークルの勧誘が目白押し。熟考の末にとあるサークルへの所属を決めるのだが、人間関係で失敗。サークル内で孤立してしまう。
そこに不気味な風貌 、ひねくれた性格、他人の不幸で飯が3杯は食えるという男「小津」が現れる。小津の影響もあり「私」の高いプライドと理想はどんどんこじれていき、やがてどうしようもない結末を迎えてしまう…
という大筋を「私」が選んだサークル別に描いていくというストーリーだ。
いや、あらすじを書こうと思ったのだけど、あらすじの説明がすごく難しい。実際に見れば一発でわかるはずなのだけど、それを言葉にするのがこんなに難しいとは思わなかった。
さらにそこに後輩の明石さん、卒業生で歯科衛生士の羽貫さん、下宿の上の階にすむ「師匠」などの面々が登場し、「私」のキャンパスライフが巡っていく。
感想
なんとなく筋がわかっているのに…
前述したとおり基本的には「私」が選んだサークル内での出来事をメインに話が展開するのだけど、それぞれのストーリーは最終的には似たところに着地する。「私」のキャンパスライフがにっちもさっちもいかなくなって終わりだ。
小津とつるんだ「私」はロクなことをしない。テニスサークルに所属すれば嫉妬心から大量発生したカップルに向かって大量のロケット花火を発射する。映画サークルに所属すれば、欺瞞に満ちたカリスマ性を発揮する部長の告発(ほぼ中傷だけど)映画を上映する。その結果はもちろん周囲からの総すかんである。
2話まで鑑賞すれば筋書きは見えてくる。うまくいかない「私」に小津からのしょうもない提案。最後はキャンパスライフの崩壊。分かり切っていると言えば分かり切っている。どの平行世界でも、行き着く先は見えているのだ。
それでも僕は12話を3日ほどで完走してしまった。夢中で見てしまった。
選択の物語
この物語の本質は何だろう。「選択」である。「私」が入学時に選んだサークル、そしてその後に起こる出来事、すべては「私」の「選択」にゆだねられている。
生きていれば意識的・無意識的を問わず選択を繰り返すことになる。その結果が良きにつけ悪しきにつけ、その後も次の選択を繰り返す。そして通常、その選択をやり直すことは不可能だ。そうして数々の選択をした結果、ふとした瞬間に「あのときにああすれば良かった、こうしたら良かった」と思い返して布団の中で足をジタバタするのが人生だ。
「私」に関してはパラレルワールドでサークルを選択しているので、「やり直し」という言葉はあまり正確ではない気がするのだけど、どのサークルに所属してみても薔薇色キャンパスライフにたどり着けていない。残酷な話だけど、案外そういうものなのかもしれない。
四畳半主義の衝撃
そうして様々なサークルに所属するも、薔薇色のキャンパスライフを手に入れられない「私」が描かれた後、最後に登場するのは第10話「四畳半主義」の「私」である。
サークルなどに所属せず、下宿の四畳半に引きこもりがちな「私」は「四畳半にすべてがある」主張し、外界との関わりを極力減らした結果、四畳半の外に新たな四畳半が無数に広がる世界を体験することになる。様々な選択によって分岐してきた平行世界の四畳半が延々と続いていくのだ。
基本的に筋が同じ話を何話も見てきた結果、なんとなくこの先のあらすじを想像しながら見ていた僕にとって、この展開は虚を突かれる思いだった。
え、サークルに入らないという選択肢があったんですか。
ただすぐに気を取り直した。なんとなくこの後のあらすじが読めるぞ。なんてったってもうその前に9話も見てきたんだから…
これは正ヒロインの明石さんが四畳半の外から助けにきてくれるんだな。
いろいろとしくじったり、下手にプライドが高い主人公に対して、呆れながらもちゃんと接してくれる明石さんだ。高校時代にナンパされて困っている明石さんを「私」が助けたことも明らかになった。四畳半に閉じこめられた自分を助けてくれるのは明石さんであるはずだ。そうでないはずがないではないか。
…すっかり明石さんのファンになっていた僕は、そんな都合の良い展開を想像していたいたのだけど、実際の「私」はそこから自力で脱出する。そうか、サークルに入らなかった「私」と明石さんは大学で特に接点がないじゃないか…
そして四畳半から脱出した「私」には、想像していたものと少し違うけれど、薔薇色のキャンパスライフが訪れる。「私」に必要だったのはサークルを選択することではなかったのだ。
正直に言えば、これは僕の予想通りだった。なんだかんだ「私」には良い大学生活が待っている。テニスサークルなどウェイ系サークルに所属することで得られる薔薇色ではない、もっと静かで幸せなキャンパスライフが…
しかし、まあ、僕は11話を見ながらはらはらと泣いてしまった。展開の予想はなんとなくついていたのに。
いわゆる「お涙頂戴」の演出があるわけではない。でも、なんだろう、爽やかさというか、それも少し違うのだけど、なんと表現していいかわからない。
これまでに感じたことのない心のスイッチが入ってしまったような気がした。いつの間に「私」にここまで感情移入していたのだろうか。
なんだか、とてもすばらしい作品を見た気がするのだけど、言葉にするのがこんなに難しい作品も珍しいんじゃないかと思う。もやもやする…というわけではないのだけど、もどかしい。是非ともこの気持ちを体験してほしいなと思う。とりあえず小説を読んでおこうか…