50年前、ビートルズが発表したアルバムはいろんな意味でとんでもなかった。
ライブ、そしてアイドルからの決別をして、スタジオアーティストとしての道を歩みはじめたグループが、ビートルズという看板を一旦下ろし、架空のバンド「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」を演じるというアルバムは、イギリスのヒットチャートで27週もの間1位に君臨。記録にも記憶にも残る、とんでもないアルバムである。
そして、そのとんでもないアルバムのリミックスが50年後に再発売された…とんでもない話だ。
なにが変わったのか?
今回発売された50th Anniversary Edition(以下2017年盤)はオリジナルのセッションテープからミキシングをし直すという形で作成されているのだけど、2009年にも同じようなデジタルリマスター盤が出たりしているし、ある意味で同じCDの2枚買いということになるのだけど、聞き比べれば2009年盤と2017年盤にははっきりとした違いがある。
音圧の向上
とにかく音圧が上がっている。
2009年盤の時点でそれまでに出ていたCDに比べて音圧はかなり上げられていたのだけど、2017年盤はその比ではない。2009年盤でも聞き取れなかったような音を聞き取ることができる。
例えば「With A Little Help From My Friends」のドラム音がかなり顕著にフィーチャーされている。特に40秒あたりの間奏でのほとんどドラムソロのような音量でリンゴのドラムを聞くことができる。
音の分離
音の分離もよくなっている。
2009年盤に比べても埋もれていた音が掘り起こされている感覚だ。
「Sgt Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise)」の冒頭部分、ポール・マッカートニーのカウントの2と3の間に挟み込まれているジョン・レノンの「Bye」という言葉もかなりハッキリと聞き取れるようになった。
また「A Day In The Life」でのポール・マッカートニーのベースもかなり強調されている。もともとポールのベースが目立つアルバムではあったが、その傾向が強まったといえる。
対してこのアルバムではあまり目立たないジョージ・ハリスンであるが、オリジナル曲の「Within You Without You」もかなりクリアになっており、存在感を保っている。
謎定位の解消
ビートルズのステレオアルバムにつきものの謎の定位も解消されている。
なぜかボーカルが左チャンネルのみだった「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」「When I’m Sixty-Four」ではちゃんと中央にポールがいるし、逆に右チャンネルからはほとんどボーカルしか聞こえてこなかった「Fixing A Hole」も違和感なく修正されている。
2015年盤の「1」でも定位の修正については行われていたこともあるし、今後出ると思われるビートルズオリジナルアルバムもう一度リマスターしちゃいましたシリーズでもこのあたりは修正されていくんだろうなあ。
デモ音源までもリマスターされている
今回は2CDバージョンを買ったのだけど、2枚目に収録されているのはデモ音源である。しかしまあ、デモ音源なのに音質がえらくしっかりとしている。Anthologyにも収録されていた音源もいくつかあるのだけど、確実に聞き取りやすくなっている。
え、デモ音源もわざわざリマスターしたの?と思う。もうめちゃくちゃである。最高。
正典はどれ?
よく「モノアルバムこそがビートルズの正典である」といわれる。しかし、今現在世の中に多く出回っているのはおそらく2009年のリマスター盤だろう。定位はめちゃくちゃだけど、ある意味正統派というか、過去に発売されていたものを踏襲しているといえるだろうし。
そんなモノ・ステレオ正典論争にものすごい音圧で割り込んできたのが2017年盤の「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」なのだ。
自分の中では2017年盤を正典としてもいいんじゃないかと思うくらいに、今回のリマスター盤は出来がいいと思う。50年前のアルバムが2017年基準で違和感なく修正できてしまっている。
いやはや、次にリマスターされるのはRevolverか、White Albumか?それとも大穴でLet It Beかな?そんな想像をさせてくれる2017年盤なのであった。
ひとつだけ不満を述べるとすれば、CDに同封されている訳詞、「ペパー軍曹の傷心倶楽部楽団」っていうのは、さすがにもうやめませんか…?